「その…お母さんは、今どうなさってるの?」
前に綾さんから聞いた。柳瀬さんは理事長の養子だって。
それなら一緒に居た母親は、どうなったのだろうかと疑問に思ったんだ。
「母さんは、俺が中学の時に死んだよ。元々心臓が弱かったらしい。
それから祖父さんのとこに預けられたんだけど…祖父さんも俺が高校の時に、な。
開業医だった祖父さんのおかげで、大学に通う位の貯金はあったからこうして先生やれてるわけ。
それに…
もう綾ちゃんから聞いてるんだろ?理事長の事」
あたしは躊躇いながらも頷いた。
「そか。
なんか、いきなり現れて『君は僕の息子だ』なんて言われてさー。
驚いたけど…その男の人と、若いころの母さんが寄り添ってる写真を見せられて…。
ああ、この人が母さんが好きだった人だったのか、って妙に納得してさ。はは…
俺も相当淋しかったらしい。
もしかしたら違うかもしれないとは分かっていても、一人っきりの生活には嫌気がさしていたんだな きっと」
……違う。
違うよ。
きっと、柳瀬さんはまだ…
「淋しいんでしょ?…今でも」
口から自然と言葉が出て来ていた。


