頬に、白く光るものが当たったのは


その直後だった。




「雪…」


見上げれば、黒い空に散らばる無数の純白。


綺麗なイルミネーションじゃなくても


街灯の光だけで十分すぎるほどに綺麗だった。




「---行こうか」


ス… と立ち上がり、あたしに手を差し伸べてくる。


「どこに?」


その芸術品のような手をそっと掴んで立ち上がる。


彼はその手をそのままに、


逆の手でそっと自分の唇に触れると


「ナイショ」



と、悪戯に微笑んだ。




向かう先も分からないまま、投げ捨ててあった靴を履かされ


丁度通りかかったタクシーを拾い 暖かい車内へと押し込まれる。




「ここへお願いします」



ポケットに入れていたらしい紙を運転手さんに渡すと、静かに車は動き出す。


彼が何を考えているのか分からなかったけれど


車の中でも繋がれていた手が、不安を取り除いてくれていた。