「ありがとう…」



誰にでもなくそうお礼を言って、初めての授業を開始した。



「じゃあ、教科書の13ページを開いて……」














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特Aクラスから職員室へ帰る途中。何とか50分をやり過ごしたあたしは 疲労困憊 という文字がよく似合う顔をしていた事だろう。




「っはぁーーー!!!終わったー!!!」


「お疲れ!結構さまになってたわよ?」




そうかなそうかな!?えへへ… 


でも、ね。


最後に時間が余って 綾さんが質問タイム 何て余計な時間を作ってくれたおかげで、あたしがどんなに冷や汗をかいたか!


名前がよく分からない優等生クンの、あたしの事じゃない質問。

『〇〇という作家の著書××は何を伝えたかったか、長谷先生はどのような見解をお持ちですか?』



何ですか、それは。っていうか、その本読んだことないし。


流石に分かりません とは言いづらくて とにかく考え込むふりをしてどう言い訳しようか頭を悩ませていると。


『それは往来研究者達が難題としている、未だに未解決の問題だろう。試験に出るわけでもない。ましてやお前がその答えを聞いて“そうですか”以外の返事をする以外に何をするわけでもないんだろう?

そんな意味のない事聞くなよ。冷めんだろ』




助け舟を出してくれたのは紛れもなく大和で。


助かった事に変わりはないんだけれど


優等生クンは『ごめんなさい』と落ち込んでしまうし


その他の人たちも質問しづらい空気を 彼が一瞬で作り上げてしまったのも事実で。


チャイムが鳴る5分間の間、誰も 何も言わなかった事が あたしの精神を衰弱させたのだった。