その日は悠紀が来なかった。
私は1人の時間をもてあましていた。
不思議なもので、友達と時間を過ごすようになると、また1人の時間が少し怖くなる。
私の生きていた中では1人でいた時間の方がずっと長いはずなのに、慣れとは怖い。
1人でトイレに行けなかったマリエの気持ちが少しだけ分かる気がする。
その日は3時間目の英語の時間、不運にも4人でグループを作って英語の対話練習をしろというものだった。
いつもは、大体3人組で常に行動している子達が
「山崎さん。1人ならうちんとこ来てくれない?」
みたいな感じで声をかけてくる。
しかしその日は、
また違うグループの子が集まって大人数で私の所に来た。
「山崎さん、一緒にグッパーでグループ決めよ。」
恐らく、4人グループの子達の中の1人が欠席で、3人グループの所と団結して私も交えてバラバラになろうという計画みたいなのだが、ごく自然に受け入れられたのがなんとなく嬉しかった。
その後、私はその中の3人と班を作ったのだが、少し緊張したもののごく自然に会話に参加できた。
その中の吉田さんに「山崎さんて、おとなしいと思ってたけどしゃべったら面白いね〜」と言われて笑われた時は、少し嬉しいような気恥ずかしいような気分になった。
そんな感じで4時間目が終わって、私は1人で中庭に向かった。
木にもたれて母お手製のお弁当を食べていると、後ろから石のような物が飛んできた。
シャケおにぎりだった。
「よっ」
シャケおにぎりの次に、鞄を肩にさげた悠紀があらわれた。
「遅かったじゃん」
私はおにぎりを拾いあげた。
「寝坊した」
悠紀は私の隣にしゃがんだ。
悠紀の手からさげられたコンビニの袋にはおにぎりが二つとお茶が入っていた。
「私メロンパンがよかった。」
私は悠紀に投げられたシャケおにぎりにけちをつけた。
「日本人は米って決まってるんだよ」
悠紀はおにぎりの封をちぎった。
「そういや、悠紀がパン食べてるトコ見た事ないな。」
「あたし米フェチなの。」
私は吹き出した。
「言い方おかしくない?」
「とにかく米が好きなんだよ。」
そう言って悠紀は笑った。