「皆様にお願いしたいのは、この事件の殺戮無き解決‥‥微力ながらお手伝いさせて下さい」

またペコリとミアが頭をさげた。

頭を上げる瞬間、向かい合う死神達に冷えた視線を向けたのは気のせいでだろうか。

(私たちに釘を刺した‥?)
カノーはローブのフードの下で眉根をつり上げた。


「私、この国で黒鉄を保有している民間の者たちを把握しております。
まして黒鉄の甲冑ともなれば、思いあたるのは一人だけ」


「それは?」
ボルグが低く尋ねる。


「翡翠(ひすい)兄弟。
兄はこの国唯一の死神でした‥。
ここに資料をまとめました、後は宜しくお願い致します」


「‥‥」


女同士、目が合った。

「‥‥他力本願とお思いですか?」

カノーはあくまで無表情の女が気に入らない、無視してツンと顔を横に向ける。

「私には知識も才能も、たゆまぬ努力を惜しまぬ精神力もありますが、武力だけは持っていない‥‥時は一刻を争う、宜しくお願い致します」


ミアはカノーに深々と頭を下げた。
…そのまま頭を上げない。

ミアなりの『一生懸命』の感情表現なのだろう。…かなり不器用ではあるが。


「‥‥‥愛想もないわぁ」

呆れたカノーの声に、ミアが頭を上げる。


「ふふ、愛想の担当がいつもは居るのですけどね」

ほんの僅か、微笑んだ。


ある意味自分たち死神よりも特異な人間では無いかと、カノーは心に思う。

ミアは変わり者、それを嫁にもらうこの国の王子も変わり者、間違い無い。


(ただこの国の中枢にこの女がくい込むことは、決して民にとっては悪いことではない‥‥)