みどりちゃんの初恋


 何を言ったのか分からなかった。ううん。分かった。分かったけど。

 どうしてそんなこと言うの?

 あたしが驚いてる隙に、ヒロっちはその長い脚で、あたしから遠ざかる。それも、少しでも早くあたしから遠ざかりたい、みたいに。

 そんなヒロっちに追い付きたくて、必死に走って大きな背中に飛び付いた。

「どうして……どうして、そんなことっ」

 何も言わず、ただあたしを一瞥。そして、再びあたしを振り払った。

 また歩きだそうとするヒロっちの正面に回り込み、長い腕を掴み見上げる。

「総くんなんて関係ないっ。 あたしはヒロっちのことがす――」

「黙れ」

「っ……」

 初めてヒロっちを怖いと思った。

 ちょうど40センチ上にある眼鏡越しの瞳は驚くほど冷たい。普段から無表情だけど、瞳だけは優しかった。

「お前は俺じゃなくてもいい」

 ぶれることなく言い放たれた言葉は涙すら出ないほど、低く冷たい。

 あたしはヒロっちじゃなきゃ嫌!って言いたい。言いたいのにっ……声が出ないっ。

 声が出ない代わりに掴んでいたヒロっちの腕を握る力を強めた。違う、の意を込めて。だけど――

「お前は誰でもいいんだろ」

 ――それは伝わらなかった