別に悪いやつではないし、意外と優しい一面があることも千紗は分かっているし、知っている。

 だからこそみどりの恋を応援できるのだが、千紗から見れば自分のダンナであろう樹やその異母兄弟の雄太郎とは真逆に恋愛経験が少なそうなのだ。

 それに加え、みどりは初恋となれば二人の先行きが不安でならない。

「じゃあ。みどりを知ったのはいつ?」

「二年の始業式」

「始業式?」

「クラス替えの掲示板が見えなかった笠井は隣にいた俺に頼んだんだよ」

「へぇー、そう……」

 なら、と千紗は手を動かしながら頭を働かせる。

 どうしてみどりはその時気付かなかったのかしら?

 みどりが卓也に気付いたのは生徒会メンバーとして召集された時だと聞いていた。

 今でも覚えてる。あのみどりのはしゃぎ様は、まるでずっと探していた宝物を見つけた子どもみたいだったのだから。

「みどりをよろしく頼むわね」

 紙面を見つめたまま千紗が零した安心したようなほっとした優しい笑みは卓也には見えなかった。

 それでも、当たり前だ、と言おうとして卓也は思う。

 ――あの夏、俺から逃げたくせにあいつはまた自分から俺に近づいてきた、と――