ぐっとヒロっちの胸を押す。
「あたしのことすきじゃないなら早く離してよ……」
ぽたりと落ちたそれはヒロっちのワイシャツの色を濃くし歪(いびつ)な円をつくった。
ねえ、どうして離してくれないの?早く離してくれないと、あたし――
「離すわけにはいかない」
――えっ……?
ぎゅうっと少し離れたキョリを縮めるようにあたしを抱き寄せたヒロっちは、
「離さない」
はっきりとそう言った。
「い、意味分かんないよ……ヒロっちどうしちゃったの?頭いかれちゃ――いだっ!!」
「自分で言ったんだろ、バカ」
何故かあたしの口を自分のワイシャツの袖で擦るヒロっちは、擦り終わると再びあたしを抱きしめた。
「ええっと……お願い離して?」
「そのあと」
「早く離して?」
「お前……」
えっ?えっ?あたし、何か言ったっけ? ――ひいっ!い、今耳元で舌打ちしたよねえっ!
「ややや!怒らないでよっ……分かんないんだか――」
「――きだ」
「きだ? だれ?」
すっと腕の力を緩めたヒロっちは「もういい。呆れた」とあたしの肩に額を乗せた。
あああ呆れたっ?!どうして? ――あたし、何て言ったんだろ……えーとお。
離してって言ったことしか思いだせないなあ。
どうしてヒロっちは離れる気がないんだろ……あたしのこと好きじゃないく――あっ!
「……本当に離さなくて、いいの?」
胸の奥がくんと鳴る。
「ああ。俺は笠井がす――」
その先が聞きたい。
「――きだ。だからあと少しこのままでいてくれないか?」
改めて抱きしめられたあたしは嬉しくて信じられなくて。それでも幸せで、静かにこくりと頷いた。

