「今ね。熱中症で寝てる子が――」
「血が!血ががが!血が出てるんだってばっ」
「落ち着いて話し――」
「さっきね、さっきね!部室のガラスがバーンガッシャーンって!それで部室から血がっ!」
「まあ!あら大変。私、すぐ行くから、そこの子起きたらお水あげて」
「分かった!」
白衣を翻しながら保健室を飛び出した田川先生は30代前半独身女。
どこをどうみても結婚出来ない理由なんて見つからないのに、どうしてか結婚しない田川先生。
ふわり、と。
生ぬるい風があたしの髪の毛を揺らし、小さな音を立ててクリーム色のカーテンが微かに開いた。
そういえば、そこのベットで寝てるんだよね、熱中症の子。
それを直すためにカーテンに触れ閉めようとしたあたしの手は、何かの魔法にかかったように止まってしまった。
黒髪にすっと通った鼻筋、キメの細かい白い肌の男の子。
「きれえ……」
一歩、また一歩と近づいたあたしはその綺麗な顔に吸い込まれるように、気づいたときには唇を重ねていた。

