しばらくして拓磨が眠りにつくと、女将は拓磨の寝顔を見つめながら話し出した。


「この貝殻は…去年の夏に一緒に海へ行ったとき、拾ってきたものなんです」

写真立てを眺めながら、春人は黙って聞いていた。


「拓磨…キレイだよ!いっぱい集めよう!ってはしゃいで…両手で持ち切れないくらい集めて…」


女将の目には再び涙が浮かぶ。


「この貝殻はオレのいっちばん大切な人にプレゼントするんだ!って言っていたの…」


穏やかな表情で話す女将の目からは、優しい涙が流れた。


「拓磨…私のために…」


女将の涙を流す姿を見て、春人はとても温かな気持ちになった。


「俺…、この写真立てを初めて見たとき感動したんです」


「え?」


「なんだか分からないけど、すげぇ!って思った。そんなに気持ちの込められたものなら、当然だなって…今思いました」


春人の言葉を聞いて、女将は微笑んだ。


「春人くんの写真もきっと…ステキな写真ばかりなんでしょうね」


「えっ…」


「だって、こんなに気持ちのこもった写真が撮れるんだもの」


春人は女将の持っている写真立てを見て、照れ笑いした。