【中編】彼女の嘘

「彼方、今日仕事は?」


私は、彼方にこれを聞くのは初めてだ。


「休みだから気にするな。」


優しい彼方。


「ごめんね。」


「俺が心配性なだけ。」


私と彼方の間に恋人同士のような愛情は、ないかもしれない。


だけど、目には見えない深い愛はある。


同情。


それでもいいの。


私と彼方には、必要なの。


この時、両親や疾風や弟がどうなるかなんて気にしなかった。


違う。


気にするほどの余裕がなかった。


私と彼方は、これからの生活しか見ようとしていなかった。


私と彼方は、新たな始まりをささやかに祝った。