じゅうううう、とフライパンが音を立てる。
かちゃかちゃ、と彼女が朝ご飯の支度をしている気配がする。
僕はまだ敢えて起きない。
意識は起きているけれど、彼女が起こしてくれるのをひたすらに待っている。
いつからこれが日常になったのだろう。
バターのいい匂いが鼻をくすぐって、動かない手足がしあわせを感じていた。


「ほら起きて、もうすぐ朝ご飯よ」


優しい声が耳元でして、そっと背中に手が回された。


「ああ、もう朝か」
「ふふ、起きていたくせに」
「何だ、ばれちゃってたのか」
「当たり前よ」
「今日の朝ご飯は何?」


優しく回された手が、僕の体をそっと起こす。
動かない手足がしあわせを感じていた。
瞼を開けた。
何も映らなかった。


「今日は目玉焼き」


そうして食われゆく、僕の全て。



41,目玉焼き【エンド】