ひらひらと夏の風にプリーツスカートをたなびかせ、わたしは高校の裏道を自転車で走っていた。
部活ですっかり汗ばんだ肌が、夜風にさらされて気持ちよかった。


「疲れたなー」


一人ごちて、すっかり暗くなった裏道をぽつぽつと照らす寂れた電灯を眺めた。
公立とはいえ高校の裏道なのだから、もっと、きちんと整備したならいいのに。
そんなことを考えて自転車を走らせていたなら、「ほっ、ほっ、」とジョギングするおじさんの声が後ろから追い掛けて聞こえてきた。
後ろから追い掛けられるのは、例え、わたしを追い掛けているわけじゃなかったとしても何となく不安になる。
追い抜いてもらうか、と一人結論づけて、漕ぐスピードを少しだけ緩めた。


「ほっ、ほっ、」
(もう少し)
「ほっ、ほっ、」
(次の電灯くらいかな)
「ほっ、ほっ、」
(そろそろ電灯下)
「ほっ、ほっ、」
(あ、隣に──)


ぞっとした。
追い抜いていくおじさんの声が、隣から聞こえる。
追い抜いていくおじさんの影が、電灯下、隣を抜けていく。
追い抜いていくおじさんの影が──影、だけが。


「ほっ、ほっ、」


次の寂れた電灯下で、


「ほっ、──」


影と声が、ふ、と消えた。



35,影【エンド】