よく言うでしょ、『恋は桃色』とか『恋は薔薇色』とか何とか。
ばっかじゃないかと思う。


「たかが視界にカラーセロファン掛かっただけじゃんか」
「だから、それが恋なんだってば」
「知るかよ」


新歓で使うセロファンをライトの形に刳り貫きながら、そんなのは恋じゃない!とか、わかったように言い切ってた。


「こーんなね、たかだか桃色セロファン通しただけで……」


試しに、向かいで作業するかっこいいと噂の篠山先輩をセロファン越しに眺めてみた。

絶句した。


「ほらーね?」


友達がしてやったりみたいにあたしを小突く。
そもそも、恋についてのセロファンフィルターは例えであって、桃色セロファンで見たから恋に落ちるとかそういう話だったわけじゃないんだけど。

見なきゃよかった。

そう思った。


「どうしたの?」


そっと桃色セロファンを膝元に戻したあたしに、友達は首を傾げた。
思ったような反応じゃなかったことに、ちょっとがっくりしたみたいだ。


「ううん、別に……」
「やっぱりすきになっちゃった?」
「あはは、そうならいいけどね……」


ひくついた笑顔を浮かべながら、そっと、篠山先輩を見る。
もう二度と、桃色セロファンで彼を見ることはないだろうな。
彼だけじゃなく、他の誰かも。

篠山先輩、あなたの後ろに、たくさんの女の顔が見えました。



28,桃色セロファン【エンド】