大したことはないだろうが、それにしても何故、実験室でなく自宅なのだろうか。
そこにも首を捻りつつ、招かれるままにドアをくぐる。


「極秘の実験なんだ。ぜひお手を頂戴したい」
「お手を拝借じゃないのか」
「拝借でもいいが、返したところで意味がないと思ってな。だから礼を代わりに弾むんだ」
「そうか」


よくわからなかったが、天才というのは時に凡人には理解しがたい物言いをするものだと、エム氏はそう解釈した。
用意をしてくると部屋を出たアール氏に返事をして、調度品をしげしげとエム氏は感嘆しながら眺めていた。
やっぱり有名な科学者となれば高価な品ばかりだ、一体どんな実験をするのだろうか。
大学時代を思い出し、エム氏の胸は高鳴っていた。
しばらくドアの向こうから何かの音がして、落ち着いたかと振り返れば、そこが開いてアール氏が顔を覗かせた。


「どうした、入ってきたらどうだ」
「ああ、少し手間取ってな。手伝ってくれないか」
「いいとも」


何をしていたのかと思いつつ、相変わらずドアのノブに手を伸ばす。
そのまま向こう側にドアを開ければ、上からギロチンが勢いよく落ちてきた。


「な、拝借しても返せないだろう」



11,お手を頂戴【エンド】