ときおり息が出来なくなることがあった。
それは、朝の支度中、電車に乗車中、プールで遊泳中、ビルの隙間を歩行中、パソコン画面と対峙しての勤務中──全くところ構わずといった感じだ。
そしてまた、ウィンドウショッピングの最中、突如としてわたしはそれに直面した。


「っ……」


息が出来ない。
しかしいつものことだ、少し我慢したなら、いつものようにまた──


「──また、『あなた』に戻れると?」


ウィンドウの中でわたしが笑った。
わたしが、『わたし』が、嘲笑を浮かべわたしを見詰めていた。
酸欠の頭は思考する、上手く機能しない細胞が必死に理解を求めて、そしてまた酸素が回らなくなる。
酸素が、思考が、わたしが──


「あ、あなた、大丈夫!?」
「……ええ、すみません」
「病院は?」
「いえ、いつものことです。ありがとうございます」


軽くお辞儀をして立ち上がった『わたし』を、わたしはただ、呆然と、薄い壁の向こうから眺めていた。



8,『わたし』【エンド】