「あの…彼女の家族って?」


俺は福原さんに尋ねた。


福原さんは可奈の病室を横目で見ながら


「こちらへ…」


と、俺を病院の待合室に連れて行った。


「可奈ちゃんが小さいときにあの子の両親は離婚をしてね、あの子はずっと父親に育てられてきたわ。」


福原さんの眼鏡の端がコーヒーの湯気で白くなった。


「病院にもほとんど顔を見せない父親だったけど、可奈ちゃんにとってはたった1人のパパだったのよね。目が見えるようになったら一緒におうち帰れる。って信じてずっと待っているのよ。でも…」


福原さんは指で軽く目頭を押さえて言った。


「でも、彼女の父親は3ヵ月前に亡くなったの。」


「え…?」


「自殺したのよ。借金苦でね。」


…言葉が出なかった。


静かな待合室がさらに静まりかえった気がした。
俺の心臓の音だけがやたらと耳についた。


「そのことは可奈は…?」


俺が尋ねると、福原さんは小さく首を振った。


「可奈ちゃん、あなたのこと本当に信頼しているみたいだからあなたには話したけど、彼女の手術が終わるまでは言わないようにしてね。精神的なショックを与えてしまってはいけないから…」