僕は猛スピードで車を走らせた。


そして向かった先は、彼女の実家のある長野県だった。


何度か彼女を送って行ったことがあったので場所は知っていた。


僕は結局、彼女のことを何も知らないままだ。


別れた女性を追うのは性に合わないが、このまま終わるのも魚の骨が喉にささったように気持ちが悪かった。
故郷に何があるわけでもないが、どうせ暇な身だ。
行ってみる価値はあるだろう。そう思った。


僕は無我夢中で車を走らせた。そして3時間後。
彼女の家に着いたときにはすでに夜の9時をまわっていた。


玄関の前に人影が見えた。


僕は気にせず足を進めた。


「こんばんは。」


僕が声をかけると、その人影が振り向いた。
中年の男性だった。


「きみは…？」


男性は眉をひそめる。


「あ、あの…突然すみません。僕は、愛里沙さんの友達で柏木と言うものです。」


「愛里沙のお友達…ですか。」


親父さんのようだ。


「はい。ちょっと近くまで来たものですから…愛里沙さん、いますか？」


いるはずもないのに、聞いてみた。