女王様御用達。


施設を出て、少し彼を見失う。

きょろきょろ右へ左へと見つめると、道の先にぼさぼさ頭が見えた。

アタシは猛ダッシュで距離をつめる。


「待ってくださいっ!!やっぱまずいですって」


ハチの声が響き渡った時には、彼は振り向いていた。

しかし、それはアタシの槍が振り下ろされるのとほぼ同時。


「ニアさん!!」



カ゛!!



振り下ろした槍を、細めの短剣がせき止めていた。

銀色に光る短剣は、白衣の袖の下に仕込んでいたものらしい。

長い前髪の下から睨むでもない赤い観察眼がこちらを見つめた。


「……あの、何のご用ですか?お姉さん」

「医者のくせに剣仕込んでいるのかよ」

「長旅には身を防ぐ手段も必要ですよ。人間としてね」


彼は反撃するでもない。


ただアタシの次の手を待っているようだた。


槍を振り、今度は奴の首を狙う。

彼は目を細め、それをなぎ払う。

次は腹、心臓、足、腕、足。

まるで舞踊のように彼はアタシの矛先を弾いた。

カン、カン、カン。

甲高く金属がこすれる音が楽器のように規則正しく響く。

アタシの行動をちゃんと読んでいる。

「上手いな」

「……貴方こそ、基本的な動きしかしてないですね。動きが戦うための武術じゃない」


アタシは距離をとり、槍を握り直す。



「踊り、人々を魅了させるための舞術。流れる動き方がそれだ」



男はちらっとハチの方を向いた。


「あの人が必死で止めているのを見ると、貴方は賊ではなさそうだし」


彼はやはり様子見だ。

そこに殺気はない。

それだけアタシとの対峙に余裕を持っていた。

手を抜いているとはいえ、白銀の騎士にやられているとはいえ、女王騎士のアタシの相手にだ。


「何のご用ですか?」


こいつ、医者の姿をしている割に、相当出来る。




そして。



彼には、その柔らかな表情とはかけ離れたどす黒く大きな気配が漂っていた。