「アンタ、意外とイイ奴じゃない」
突いた手をハチはふりほどく。
「ふざけないでください。まだ手が震えているくせに!!」
「大声出すな。道行く人が振り返るだろ」
「大体、彼がこの国境から入ってくるなんて限らないし」
アタシはシーっと人差し指を唇に当てる。
リュウズの国境は3つ。
そのうち一番城に近く、また要人の入国受付をしていたのはこの国境だけだった。
女王騎士……という特別な資格でアタシ達が入ってきたのもこの国境。
「おそらくだが、悪魔の男は一般人では入ってこれない」
「何故?」
「数百年生きている人間だぞ?普通に入ったら、止められる」
「偽造するかもしれないじゃないですか」
「オーノンはリュウズの友好国。国境の警備レベルも高いし偽造もばれる。女王が確実にお前に与えた『本物の偽物』ぐらいしか通らないさ」
……いや、もっとも、ミアにハチの正体はばれているかもしれないが。
ルール女王様経由で。
「あいつは悪魔の力を持っているから国境越えなんてたやすいかもしれない。でも、今までの動きを見ている限り、その動き方はあまりに人間的だ」
「……新たに移動する手段を得たかもしれないっすよ」
「その可能性はぬぐえない。悪魔の力を上げるときりがないが、その力を使うことは本人にも何らかの制約があるはずだ」
「制約?」
「悪魔は貪欲だ。契約だけに小指だぞ?力を借りるのにどんな取引を持ち込んでくるか分かったもんじゃない」
「……貪欲……」
「興味本位で読んだ本には、早産で死んだ赤子蘇らせるために契約者の両手両足をもぎ取って、さらに魂までうばったとさ。しかも赤子は大量虐殺犯として捕まるというおまけ付き」
その男は、神の使いと自称する、やはり人間ならざるモノと対等に戦う程度の力を使っている。
人間としての支払いとしては相当大きなものを背負っているに違いない。
「たかが偽造なんかでその力を使うとも思えない」

