「塾の方があとならいいのにな。」



今日も、彼女は唐突に話を始める。


「なにが?」



「卒業。」



2月の終わり。
中3の僕らは、今日で塾の講習を終えた。

つまり、今日が彼女と歩く最後の帰り道だ。


「どうして?」



冷たくなった手にほっと息を吹き掛けながら、
ぶらぶら歩く彼女に聞く。


「はんぶんこ」


と、目の前に彼女の手袋――水色に、白い雪の結晶が編み込まれた、ふわふわの手袋――が、差し出される。



「ありがとう。」



受け取って右手にはめると、すこし窮屈だった。
彼女の温もりが残っていて、僕は少しだけ寂しくなった。


終わりがくる、のはわかっていた。
わかっていたけれど、それは何だかふわふわしていて、さっぱり現実味がなかった。

手袋から彼女の温もりを感じた瞬間、急に現実に立たされた気がした。



僕は、彼女のあいた右手を取り、そっと握った。

彼女が追い付くまで待った時のように、
何故かはわからなかったけれど。



「手、冷たいね。…でも、あったかいね。」



そう言いながら振り返った彼女は、

目に涙をいっぱいためながら、


にっこりと笑った。




「ね、遠回りしよう?」



手を繋いだまま、彼女は言った。