「話があるんだ。」



冷たい風が吹くいつもの道で、武弘が言った。



「ねぇ、今度の日曜は私も部活が休みだから、どこかデートに行こう」



知らんぷりをして、日曜日の予定を立て始める。



「どこがいいかなぁ。久しぶりに水族館なんていいかも。冬の水族館って何だか素敵だし…」


「祐夏」




低い声で遮られ、武弘が足を止めた。



「別れてほしいんだ。」




やっぱりきた。
軽い目眩を感じる。



「俺、好きな奴が…」


「雪音でしょ。」



武弘が驚いたように口をつぐむ。



「見てたもの。スタジオで、雪音にキスしていたところ。」



武弘の目が丸くなる。



「絶対、別れない。」



「祐夏」



「絶対、許さないわ。もしそれでも武ちゃんが別れるって言うなら、私、死んだっていい。雪音のことも、許さないわ。」



口をついて出る言葉に自分でも驚いてしまう。
こんな感情が、自分の中にあったなんて。

不思議な冷静さで、微笑みさえ浮かべながら、武弘を見る。



「祐夏…わかってくれ。」


「わからないわ。そうしたいなら、あなたの好きにすればいい。でも、そうすれば私は死ぬわ。雪音だって、無事でいられない。」




苦しそうな顔で黙っている武弘に、じゃあ、帰るわ、と言い残し、冷たい風を切って歩き出す。



もう、止まらない。
この気持ちは、止められないのだ。