――この声。



隣で小さな声を出しながら――普通に声を出すと、一人飛び抜けた声が出るので合唱にならないのだ――歌う雪音をちらっと見ながら祐夏は思う。



この声に、武弘は惹かれたのだろう。
声だけじゃなく、彼女そのものにも。

黒くまっすぐなショートヘア。やや黄色がかった白い肌。ぷっくりと可愛らしい唇とは対照的な、強い光を放つ瞳。



自分にさえ聞こえないような小さいため息をつく。



雪音を責める訳にはいかない。
武弘がどういう理由であんなことをしたのか、考えるだけで身が引き裂かれてしまいそうだ。


でも、私は武弘を責めることなどできるだろうか?



あの夜、私は敬太の腕の中にいた。
雨の中で私を見つけた敬太が私を抱き寄せた時、この温かさに甘えてしまおうと思った。


中学の時から、敬太が私に想いを寄せていることは、わかっていた。



わかっていて、利用した。



私に誰を責めることができるだろう。





でも、そんな理性など、いとも簡単に崩れ去ってしまう。



雪音さえいなければ。




それに気付いていながら、それでもそんなことは微塵も思っていないという態度で、今日も私は雪音の隣にいる。