「あの声だったら、このカバー歌えんだろ」



急に話し出した武弘が、私に楽譜を放ってよこす。


敬太もそれを武弘から受け取り、一度目で追う。



知っている曲だったので、制服のリボンをほどき、第一ボタンを外して、マイクの前に立つ。



それを見た敬太はにかっと笑い、カウントを刻む。

武弘は、一瞬だけ、にやりと笑う。



ドラムとギターだけの伴奏は、カバーのようでカバーでないような、不思議な感じがした。


でも、何だか心地いい。



しっかりとした船に乗って、海を航る気分。
例えるなら、そんな安心感と爽快感。



気持ちよく声が出ているのが、自分でもわかる。



演奏が終わると、全員で目を合わせ、少し笑った。