私は、高校に入学した。


彼――直樹くんは、どこの高校に入学したのか、私は知らない。


5時間目の教室は、窓から春の日差しが入りこんで、ぽかぽかと暖かい。


チョークが黒板にあたる、こつこつという音。誰かがイスを動かす音。斜め前の女の子が隣の子と話す音。


彼は今頃どんな音を聞きながら、どんな景色を見ているんだろう。




…いけない、いけない。


最近意識を手放すと、彼のことばかり考えてしまう。

首に巻いた小さな星を、制服の上から握りしめる。



卒業、約束。



一人で立つと決めたのだから。




「ね、雪音。今日の放課後一緒に部活見に行かない?」
いつの間にかチャイムが鳴って、授業が終わっていた。


彼女――祐夏が、私に話しかける。入学式で隣になり、屈託なく話しかけてきた祐夏と、ほとんどの時間を一緒に過ごしている。



にこにこと、可愛らしい顔で、小首を傾げる様は、本当に可愛い。
ここに馴染む為に、色んなことを我慢しなくては、と思っていたけれど、彼女に出会ったことで、その不安は半分以上取り越し苦労といったところだ。


彼女に出会えたのは、本当に幸運だったと思う。



「うん、行こう」



にっこりと笑い、私は返事を待つ彼女にそう告げた。