『タケルは何故医者を目指してるんだ?』

その問いに、タケルは一瞬躊躇した。
面接や書類上では決まり切った言葉を使っていたが『何故』といきなり聞かれた事は無く。実際自分が『何故』医者になろうと考えていたのか。

いつも両親の示してきた道は安全で、正しく…だから医者になる。っと自分に言い聞かせてはみたが、心のどこかが不安になっていた。

僕は本当に医者になりたいのか。医者以外の道はあるのか…。

学友は、そんなタケルを見兼ねたのか、何も言わず自分の絵に対する情熱や、色々な芸術が有る事。表現には、規定や差別が無い事。そしてなにより、人のリアルな感情が存在し、自由な世界がある事を話した。

世界は一晩で大きく広がり。タケルが考える事さえしなかった自由な想像力と創作力が、そこには存在した。

学友が見せ教えてくれた数々の作品には。改めて見ると、絵画や写真・彫刻などの描写にそれぞれの強い意思が感じられた。

その中の一枚の写真で、タケルは正に微量の電流を流された様に鳥肌が立った。

それは、男が撮った写真。

兵士がカメラの前で打たれ、一瞬の激痛に顔を歪めさせ、こちらを横目で見ている。

しかし、タケルは思った。写真は衝撃的だが、何かが足りない。ただ、その足りなさが写真をより魅惑的に、人を引き付ける要素にもなっていた。

タケルはその後、生まれて始めて両親に逆らい、自らの意志で道を歩む事を決意したのだった。


『そして、僕は貴方の撮る写真の意味を、足りない意味を知る為に戦場へ来ました!』