『僕は貴方の撮る写真の意味を、足りない意味を知る為に戦場へ来たんです』

男はタケルの真剣な表情と、自分と同じように答えを切望する意志を目の奥に見た。

タケルが言った【足りない】何かを、男も感じていたのだ。ただ何が足りないのか、何故足りないのか。

自ら渇望し、また恐れている答えを滔々と考えた。

タケルもまた、男への問いが、自分への問いになっていると判っていた。

そのまま2人は、一言も喋る事無く。星空の天蓋布に包まれ、お互いの中に嵐のような思いを抱きながら、しずかに過ごした。


太陽が夜の帳を容赦無く引裂き。暑さが
ジワリジワリと覆う頃には、2人は少し離れた農村に向かう途中だった。

道すがら男は初めて師匠らしい発言をした。
『たまに撮っている、お前のフィルムはどうしてる』

突然の質問にタケルは驚いた。
『いぇ、あの、現像の為に支部に送ってます!』

男は『…そうか』と一言のみ。

タケルは慌てた。今を逃したら、今後二度と聞けないと思った。
『あの!僕は今一つ、何に焦点と言いますか、何を撮るべきか迷ってるんですが…?』


息も凍る様な沈黙。実際にタケルは、歩きながら息を止めていた。


『お前が、撮りたいと感じるものを撮ればいい。誰かの為では無く、お前自身が感じる被写体を撮れれば。そしたら、それを俺に見せてみろ』


『は、はい!』
タケルは嬉しかった。心底嬉しかった。
男に認められる事が。こんなに嬉しく思える出来事は今まで無いくらいに。

タケルは満面の笑顔になり、蒸せる暑さも忘れていた。

農村への道は2人以外誰も居ない。タケルは急かすように、男よりも先陣を切って歩いた。


その瞬間

ドスンッ!!
鈍い音とともに、土煙が上った。