「なんで? 6時から始まってんだろ?」

「お前、ライブ初めて観るんだろ? だったら、俺のライブを最初に観ろ」


 ヒメの命令口調が何だか癪に障るけど、俺は思わず頷いていた。

 大きな瞳が、有無を言わさぬ強い光を宿している様に感じたから。


「俺らが演るのは3番目だ」


 Anniversaryの下の、小さい文字をヒメが指差す。


「ルシ……?」

「Luci[ルキ]、だ」


 「ci」だったら「シ」だろう、とは思ったが、英語かどうかも分からない。


「じゃあ、俺出掛けるから。ちゃんと7時に来いよ」


 背を向けるヒメを呼び止めて、俺は改めて聞いてみた。


「なぁ、バンドのヤツらとうまくやれてるのか?」

「余計なお世話だっつーの。とにかくお前は、今夜俺の歌を聴けばいいんだよ」


 むすっとした表情から、直ぐに自信たっぷりな笑顔に変わった。

 ヒメのその笑顔に、心臓がドクンと跳ねた事は、俺自身深読みしたくなくて、急いで忘れることにした。