家族ごっこ





「風呂ごちそーさん」


10分と経たないうちに、おっさんは上機嫌で風呂場から出て来た。


そして、湯上がりのそのおっさんの姿に俺は驚愕した。

伸び放題だった髪をかき上げて後ろに流して露になった顔は、思いのほか精悍で若い。


今まで伸び放題の髪と鬚のせいで気がつけなかったが、俺はこの顔の男を知っていた…。





「…おっさん、あんた、


もしかして、

…有坂 豊春?」



「……なんや、わしのこと知っとるんかい」


おっさんは少し複雑そうな顔で俺を見た…。




…知っているもなにも、

俺は、天才画家"有坂 豊春"の大ファンだった。


画集はすべて持っているし、個展にも何度か行ったことがあった…。






3年ほど前に筆を折り、行方不明になって美術界から消えたその人が、


まさか、

ホームレスになっていたなんて……