「恋人は出来た?」


片平さんは、俺に会う度にそんな質問をする。

母さんが死んでから俺が恋人を作らなくなったのは、この人も知っている。
それを心配してか、いつもそんなことを訊ねてくるのだ。



「出来たよ。同じクラスの子」

そう言って答えると、片平さんは驚いた顔をしたあと嬉しそうに笑みを浮かべた。


もちろん恋人なんていない。
片平さんに教えたのは、恋人ごっこ中の神菜のことだ。


俺は片平さんの前でも、神菜との恋人ごっこを続けた…。

ケータイの待ち受け画面にしてある2人で撮ったプリクラの画像を見せたり、彼氏らしく彼女の話をしたりした。


騙すのは申し訳ないけれど、こうでもしないとこの人はいつまでも俺を心配し続けるし、自分の新しい恋人を見つけることもしないだろう…。


その人が自分のことを優先してくれないと、俺が家を出た意味がない。



「可愛い子だね。いつか会ってみたいな…」

「いつか紹介するよ」


片平さんの言葉に、俺はそんな気のない返事をした。