―――千里の病院に行き、先に会計だけ済ませた。


生と死の混在する場所な筈なのに、人々の笑顔は、嫌に明るい。


まるで生きることを望んでいるようで。


千里とは、正反対だと思った。


真っ白な病院に黒のスーツで歩く俺はきっと、

弾き出されたように浮いているのだろう。


病室までの長い廊下を歩きながら、心臓の音は次第に大きさを増す。


止まってしまいそうになる足を、一歩ずつ進めた。




「おはよう。
気分は?」


『…マツ…。』


開いていたドアから中に入り、すでに着替えていた千里に声をかけた。


戸惑いながら千里は、俺の名前を呼ぶ。


開いていた窓から冬の冷たい風が吹き抜け、千里の髪をなびかせた。



『…今ね、服とか詰めてたの。
マツは…もぉ終わったの…?』


視線を一度バッグに向け、そして再び俺の顔を見上げた。


ゆっくりと千里の傍まで歩み寄り、少しだけ笑い掛けた。



「…全部、終わった。
だから、お前を迎えに来たんだ。」


『…そっか…。』


包帯の取れた左手首を擦りながら、千里は顔を俯かせた。


チラッと見えた隙間からは、痛々しい傷がハッキリと残されたままだ。



「…痛い?」


『…そんなこと…ないよ…。』


少し気まずそうに言いながら、顔を上げた千里の瞳が俺を捕らえる。



『…マツ、どうしたの?
目が赤いね…。』


「―――ッ!」


俺の頬に触れながら、千里は悲しそうに聞いてきた。


だけど俺は振り払うように、サングラスを取り出した。



「…寝不足なだけだよ。
気にすんな。」


言いながら、千里の荷物を持った。


部屋を出る俺の後ろに、千里は何も言わずに続く。