「頼んだからな。」


『―――ッ!』


嵐の瞳を真剣に見据え、言葉を発した。


瞬間、戸惑いながら開こうとした口を遮るように、

飲み終えたコーヒーの缶を顔の前に差し出した。


そんな俺に、何かを押し殺し、嵐は目を伏せる。



『…誰にも言えねぇこと?』


「流石は、ナンバーワンだな。」


少しだけ口角を上げ、俯いたままの嵐を残して立ち上がった。



『どこ行く気だよ?!』


静かな病院の廊下に、嵐の声が響く。



「…とりあえずシャワー。」


顔も向けず、手をヒラヒラとさせてその声に答えた。




いつの間にか、雪はやんでいた。


少しずつ顔を覗かせ始めた朝日に反射するように、道端に残る雪がキラキラと輝く。


そんな光景は、

これからハッピーなことが待ち受けているのかもしれないという、期待さえ持たせてくれて。


自然と“頑張らなきゃな”って気になれた。



ツンとする寒さは、自然と俺の背筋を伸ばした。


もぉ一度背伸びをし、清々しい空気を吸うようにして、

咥えていた煙草の煙を吸い込んだ。



取り出した携帯の“仕事”にフォルダ分けされた名前の一番上から、順に電話を掛ける。


ほとんど関わりのない相手には手短に、

そして世話になっている関係の人達には、会う約束を取り付けた。



全て、千里のために。


そして全て、自分のために。


残された5日の間に、俺は全てを捨てるんだ。


後悔なんて、していない。


後悔しているというなら、こうなってしまったことに対してだけだ。


他人が聞いたらきっと、馬鹿みたいに笑うだろうな。