「…なぁ、嵐…。
お前、どこまで聞いた…?」


『…何が?』


味噌汁をすすりながら、嵐は目線だけをこちらに向けた。



「…隼人さんが死んだ理由とか、仕事のこととか。」


『あぁ、アンパンマンなんだろ?』


「ハァ?!」


キョトンと言う嵐に、眉をしかめた。



『千里が言うには、“隼人はアンパンマンで、あたしを守ってくれたんだよ”って。
“でも、着ぐるみ着てるだけだから、ホントはすごく弱いの”って。』


「…お前、それを信じてんの…?」


呆れ半分で、短くなった煙草を消した。



『まっさかぁ。
でも、言いたくないんだと思って、そーゆーことにしといてやったの。』


「ふ~ん。
じゃあお前、何も知らないんだ。」


少しだけ、複雑だった。


そんな俺を横目に、嵐は“ごちそうさま”と言いながら、手を合わせる。



『…別に、詮索する気もねぇよ。
俺、そーゆー職業だし。』


嵐は、フッと笑いながら、煙草を咥えた。



「じゃあ俺、行くわ。
いい加減、眠くて死にそうだし。」


勢い良く立ち上がり、あくびを押し殺した。



「それと、お前に忠告だけどさぁ。
お前が死んだら、確実に隼人さんに2回以上は殴られるから、覚悟しとけよ?」


『…何で?』


咥え煙草のまま、嵐は眉をしかめて俺を見上げた。



「一発目は、ちょっとでも千里を口説こうとした分。
二発目は、“隼人、隼人”って偉そうにした分。
あとは、あの人の気分だ。」


『…意味不明なんですけど。
何でそんな、千里の周りは危ない男だらけなわけ?』


首をかしげた嵐に、“じゃあな”の言葉一つを残して背を向けた。


定食屋から出ると、太陽の日差しに目を細めた。