『…“マツの友達になってあげて”って。』


「―――ッ！」


『“マツは、ナベくんに家庭があることをわかってないんだよ。
だからこれからは、嵐がマツに付き合ってあげて♪”ってさ。』


言い終わった嵐は、“ナベくんって誰？”なんて首を傾けた。


そんな言葉も耳に入らず、嵐が言った千里の言葉の意味を考え続けた。



『…しょ～がねぇじゃん？
千里の言うことは、“絶対”なんだよ。』


「…何でお前、そこまでするんだよ？」


諦めたように煙を吐き出す嵐に、ため息をついた。



『…それは、マツにだけは言われたくないね。』


「―――ッ！」


嵐の言葉に、何も言い返すことが出来なかった。


誤魔化すように煙草を取り出し、火をつける。


硬い椅子が背骨に当たり、それが余計に居心地の悪さを増させていた。



『…この前さぁ、千里が同伴してくれたんだよ。
気にすんなとは言ったんだけど、“お店抜けさせたお詫びだよ”って。』


「…アイツが…？」


目を丸くした俺に、嵐は“そうだよ”と言いながら、言葉を続ける。



『…義理堅いねって言ったら、“義理堅いから隼人と付き合うことになって、義理堅いから隼人は死んだんだよ”って。
意味分かる？
俺、サッパリなんだけど。』


「―――ッ！」


聞いてくる嵐の言葉に、心臓が嫌な音を打ち始めた。



「…あの人が死んだのは、千里の所為じゃねぇよ。」



未だにアイツは、自分を責め続けている。


自分が最後にファミレスに行った所為で、隼人さんが刺されたと思い込んでるんだ。



『…俺に言うなよ。』


ポツリと言った嵐は、俺から目線を外した。


無愛想な店員は、黙々と嵐の頼んだ料理を机の上に並べ、

俺達の方も見ずに去って行った。


手元の煙草は短くなり、半分は灰となった。