『…馬鹿な女と賢い女ってのはな、俺ぐらいになるとすぐにわかるんだよ。』


そう言って話し出した男は、気だるそうに体を壁に預けた。



『千里は、賢い女だ。』


「…いや、あれは馬鹿だろ。」


仕方なく俺も壁にもたれ掛かり、月を見上げた。


上弦の月は綺麗なのに、病院の明かりで台無しだ。



『…いや、まぁ馬鹿は馬鹿だけど…』


思い出したように笑う男の顔からは、先ほどの怒りが消えていた。


綺麗に笑うその顔は、女が群がる理由もわかる。



『…“スナックに良い女が居る”って聞いてさ、行ってみたんだよ。
所詮スナックだし、期待してなかったんだけどさぁ…。
…すげぇな、アイツ…。
流石の俺も引き込まれるかと思ったわ!(笑)』


“そうだろ?”とでも言いたげに、男は俺を見て笑う。


その顔を鼻で笑い、煙草を口に運んだ。



『…寂しい女だってのは、すぐにわかったよ。
落ちるのも簡単だと思った。』


そう言って、男は言葉を詰まらせた。


俺達から吐き出された煙は、風に舞って消えてゆく。



『…“残念だね、嵐…。
あたし、アンタよりも良い男、二人も知ってるんだ”ってさ…。』


「―――ッ!」



何を言われているのかわからなかった。


“二人”って…



『…死んだ男と、アンタだろ?』


「―――ッ!」


俺の代わりに言った男は、少しだけ悲しそうに笑った。


その瞬間、心臓に痛みが走る。