帰り道、千里は先ほどの話には触れようとしなかった。


だから俺も、何も聞かなかった。


15分間の重苦しい時間は、今思えば、お互いの胸を締め付けていたんだろう。



“やっぱり隼人が好き”


そんな風に言われるんだと思ってたんだ。


だけど、そんなことを考えていたのは俺だけだった。


千里の身には、もっと大きなことが降りかかっていた。



細い体で、細い腕で…


お前はまた一つ、大きなものを抱え、そして失っていたんだ…。


何も気付けなかった。


何も、聞こうとしなかった。




《…マツ、相談があるの…。
終わる頃、お店に来て欲しい…》


留守電に、それだけ入っていた。


あれから千里が、うちに来ることはなかった。


たまに店で顔を合わして、ちょっと話して、それで終わり。


微妙な隙間風が吹いていたことくらい、俺にだってわかってた。



「…相談…?」


受話器を耳に当てたまま、首をかしげた。



“話がね、あるの”


これとは、別のことなんだろうか?


考えたって、ちっともわからない。


“隠し事はナシだ”って、自分で言った筈なのに…。


お前は俺に、言おうとしてたのにな…。


全部、踏みにじったのは俺だ―――…