「……じゃ、今日はゆっくりしてろよ。あぁ……」

電話を切ると、少し表情を曇らせて柏木さんが戻って来た。



「どうか、したんですか?」

思わず聞いてしまったのが失敗だった。



「春奈が、ちょっとね」

「桜井さん?」


「具合悪くて寝込んでるらしいんだ。風邪でもこじらせたのかな」

柏木さんはそう言って肩をすくめた。


じゃあ、図書館に行っても、彼女はいないのか。



「……悪いけど、1つ頼まれてくれないか?」

空になったコーヒーカップを眺めていた俺に、柏木さんが遠慮がちに言った。


「何ですか?」

「春奈に届け物をお願いしたいんだ。ついでに様子も見て来て欲しいんだけど」


柏木さんはそう言うと、カウンターの隅に掛けてあったエプロンを、近くにあった紙袋に入れて俺の前に置いた。


……多分、エプロンは口実。


会ったばかりなのに、俺はよっぽど信用があるのか?



「お願い、できるかな?」

「……はい」

なんとなく断り切れない雰囲気に、俺はそう返事をしてしまった。


それを聞いてほっとしたように、少しだけ口元をほころばせる。


「今、住所と地図書くから」


電話の脇にあるペンとメモ用紙に向かう後ろ姿を俺は、何とも言えない表情で見ていた。