転がった空き缶をまとめて、ラグにこぼれたビールを拭き取った。

ついでに寝ている彼女の目の上に冷たい濡れタオルを置いて、鍵を掛けて彼女の家を後にした。


そんなことをしてしまったのは、今朝の千鶴を思い出したから──……。


鍵はそのまま新聞受けに入れた。

一応テーブルの上にメモを残したから気づくだろう。



……何だったんだ。



彼女がなぜ俺を誘ったのか、その理由はわかった気がした。

つーか、彼女のキャラ的には、かなりの勇気で誘った気がしてならない。


何であんな荒れた飲み方しなきゃいけないんだ?

やっぱりうまくいかなかったのか?

まぁ、あの関係だとうまくいかないことの方が多いんだろうけど。


ふわふわした女だと思ってたら、影を持っていた。




酔ってはいないけど、酒を抜くために歩いて帰ることにした。

そんなに距離もないだろうし。





写真立て収められていたのは、今より少しだけ若い彼女と──N高の制服を着た男。



当然彼女よりも幼い顔をしていたが、背は彼女よりも高かった。

場所は学校の図書室。

背景には散りかけの桜。


彼女はきっと、N高の教師だったんだ。

そして、あの生徒と恋に落ちた。


俺が彼女を知らないってことは、入れ違いに学校を辞めたのか……辞めさせられたのか。


……知らなくてもいいことを知ってしまった気がした。


どっちみち、しばらくあの図書館には行けないかもな……。