「智明さ」

混乱していて答えられない様子の千鶴の代わりに、智明に声を掛けて注意を反らす。

さっき見た女のことを聞いてみたら、智明は言葉を濁した。


……本当に彼女なのか、それとも言えない関係なのか。


智明も千鶴が好きなはずだから、彼女ってこと多分ないはずなんだけど。


まぁ、智明も中学の頃は、千鶴が他の男に興味を示してたから、無理に女とつき合ってたみたいだけど。

でも、誰が見てもわかるくらい本気じゃなかったな。

気づいてないのは多分、千鶴くらい。


これ以上イジメるのはちょっとかわいそうになってきて、DVDを智明に渡して千鶴も帰るように促した。


「……あ、千鶴。ちょっと待って」


千鶴の後ろ姿を見て思い出し、冷蔵庫からさっき買ったコンビニの袋を手渡した。

千鶴は一瞬“きょとん”とした顔をしたけど、それを受け取って帰った。


……やっぱり、覚えてなかったのか。


2人を送り出し鍵を閉めようとした時、千鶴を呼ぶ智明の声とか、

“おやすみ!”と、少し強い口調で言う千鶴の声が聞こえた。



千鶴、また泣いてんのかな──……。