あたしは、ただ涙を流した。
何も、言うことが浮かばない。
頭ん中真っ白だ。
…あたし、どうしたの?
もっと言いたいことあるはずでしょ?
何で思い付かないの?
どうして口が動かないの?
「………さよならだ。美咲。」
ハルは優しい笑顔でそう告げた。
「…………うん………」
動かなかった筈の口は、いつの間にかに動き出していて。
あたしの顔は泣きながらも、今までにないくらいの笑顔を勝手に作っていた。
「……美咲は笑顔が似合うんだから、あんまり泣くなよ?」
ハルは、最後まで笑顔でいた。
今までと変わらない、綺麗な笑顔。
「…………さよなら!、ハルっ!」
あたしは裏庭を出ていこうとするハルに呼び掛けた。
ハルは軽く手を上げただけで、振り返ってはくれなかった。
…あの人の隣にいつも居たんだ。
昔からずっと、今まで。
「………さよなら」
でも、あたしが隣に並ぶことは、もうないんだ。
ハルには、あたしが夏生の事が好きなんだと誤解されたまま。
でも、その誤解を解こうとは思えなかった。
だって、あたしには関係ないから。
ハルにどう思われても、あたしが気にすることじゃ無いから。
あたしは、流していた涙を噛み殺すように、無理矢理止めた。
………君の隣は、あたしの居場所じゃないんだよ…。
ハルの姿が見えなくなってから、あたしは心に壁を作っていた。
気持ちを抑え込むための、分厚い壁を――


