「顔。洗ってこれば」
「あ、うん」
そんなに酷い顔してるのかな?
心配になりつつ急いでトイレに入ろうとしたとき、桜田くんに腕を掴まれて。
ぱっと振り返ろうとしたけど、その前に桜田くんが話し出したから私は動きを止めた。
「……え?」
「だから、…アイツには気をつけろって」
「あいつ?」
「谷口しかいねぇだろ。アイツ、ほんとなんつーか…手ぇ早いし。女にだらしねーから」
「そう…なんだ」
ああ、なんで。
気の抜けたような声しか出てこないの。
せっかく桜田くんが心配してくれてるのに…
少し いらいらする。
簡単に女の子に触れさせる桜田くんだって同じようなもんじゃないの?って。
なんだろう。
止まらない…
止まってほしいのに、止まらない。
「…桜田くん、だって…」
「え?」
「女の子に、簡単に、触らせて…」
やだ。
やだやだやだ。
何言ってんの、私。
「っ……ごめんっ!」
男の子にこんなこと思うのも、ぶつけるのも、初めてで。
どうしていいか分からなくなって。
私は桜田くんの手から腕を振りほどいて、そのまま振り返らずにトイレに駆け込んだ。

