こちらは会話をしているつもりだが、男はこの雨や喧騒で聞こえないだろう。


──視界の端で、オリジンの者が1人倒れた。


ロッシュの注意が一瞬そちらに移ったその瞬間


「生きているからには、まだ生きていたいんだ!」


胸に響いたそのセリフと同時に視界が傾いた。


剣を自分には向けないよう手首をひねり、地を近づける。


泥が手に張り付いた。


(こんなとこに手をつけたの、いつぶりだっけな…)


はずみで、剣が手を離れてしまう。


負けたが当然のこの状況に、とっさに相手の動向をうかがった。まさか押し切られるなんて、という思いもこめてだ。


まだ挽回のチャンスが逃げたわけではない。


だが、トドメをさされるなら一思いに…いっそ、自分の目が追いつけないほどの速さを望む。


そう自分勝手な思いをこめて、男を見た。