最初にどちらが手を出したなんて、ロッシュには分からない。
「進めっ、怯むな!走れー!!」
後退しながら、進め進めといわれる言葉に説得力など皆無に等しいが
「帰りたいなら、剣を振るえ!」
誰もそんなものは求めていなかった。
答えるように、叫びと悲鳴とが一層大きくなる。
走りながらロッシュは、後ろを振り返り、軍の最前線だと思われる辺りに視線を投げた。
「……あ、」
知らずと、音がもれた。
見慣れたモノが馬の、人の、間から、見えた。
その数は、彼が見ている今も、声とともに増え続ける。
「…ミカキとは比べものにならんな、死者が」
フェンリルはロッシュの目の行く先に気づき、冷笑した。
戦時、彼はロッシュが知る限りで最も冷たい表情をつくる。
そうやっておかないと『自分』を保てないのは理解しているが、彼はフェンのそんな表情が大嫌いだ。
「…そう、だな」


