やがて、オペ室前の『手術中』の赤いランプが点灯した。
二階の見学室には原口教授の他、理事長や他の大学病院の教授達…それに医学雑誌のメディアが見守る中、いよいよバチスタ手術が開始された。
左右の掌を顔の横に広げ、浅田が宣言をする。
「只今より、心筋肥大症における変異部分切除~『術式バチスタ』のオペを開始する。……尚、このオペは『オン・ビート』にて行う!」
「オン・ビートだって?!」
浅田の最後の一言に一同は驚愕した!
オン・ビートとは、心臓を動かした状態でオペをする事である。
ただでさえ繊細で難しい心臓のオペを、心臓が動いたままで果たして上手く行くのだろうか?
(浅田の奴、調子に乗りやがって!)
二階の原口教授が、苦虫を噛み潰したような表情で額の汗を拭う。
「では、早速開胸を始める!」
さすがに『天才』浅田と呼ばれるだけの事はある。そのメスさばきの鮮やかさには目を見張るものがあった。
あっという間に開胸を終え、目の前にはクランケの波打つ心臓が露わになる。
「ん?」
浅田は思わずその心臓に顔を近づけた。そして、首を傾げる。
(これ、本当に心筋肥大症か?
……何か普通っぽいんですけど……)
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