その日は、日曜日でもなければ祝日でもない。


ましてや会社の創立記念日でもないごく普通の平日の朝だった。


だというのに、ゆうべの酒がまだ残っているのか、午前10時を過ぎてもまだベッドから起きる様子を見せない、会社員
『木村一平』25歳。


その彼が目を覚ましたのは、枕元で突然けたたましく鳴りだしたケータイの音に驚いての事であった。


「うわっ!!」


ベッドの上で夢見心地だった木村の環境は、一瞬にして最悪の状況へと様変わりした。


時計を見れば今頃は、会社で朝のミーティングを終え、とっくに営業活動に回っていなければならない時刻である。


しかも、自分の右手でけたたましく鳴っているケータイの液晶には
『会社』の二文字。


「ヤバ……絶対課長だよな、コレ……」


上司の丸山課長は、決して部下の心配をして電話をかけて来てくれるような優しいタマではない。


その課長が何故電話をかけて来たのかは、容易に見当がつくというものだ。


「……………」


木村は、このまま居留守を決め込もうかとも思ったが、いつまでも鳴り止まないケータイの威圧感に根負けして、渋々と通話のボタンを押した。