「朱里ーっ!」




三木さんと別れたあとに、ちょうど良く私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

歩いていく、三木さんの後ろ姿を見送ったあとでその声のする方に顔を向けた


「…光?」

「家行ってもいなかったからー…って、あの男誰?」


少しだけ不機嫌そうに、光は三木さんの後姿を睨んだ

もちろん、三木さんはまったく気づいていない。


光はそれに腹を立てたのか、三木さんが見えなくなるまでずっと睨んでいた。



「てかお前…宏太のことどうしたわけ?

 あんな男と一緒にいると…宏太が悲しむぞ?」

「…うん…」

「…それにしても似てんな…宏太に…」



光は、ボソリと呟いた。

その表情はやっぱり普通ではなくて…どこか悲しそうな雰囲気をかもしだしている


光と私は、高校生の頃の学友。

宏太の親友でもあって、私が宏太とケンカしたときは必ず光に相談していた

本名は、武本光―――。


「光までそんな顔しないでよ…」

「…分かってる。」


そっけなく返事をした光は、私のほうを向くのをやめた。

向こう側を向いた光の頬につたった涙は…私、ちゃんと見えてるよ――…。


光がどれだけ傷ついたか、どれだけ泣いたか…

私、ちゃんと知ってるよ―――。






でもね、私は何も知らなかった

光が涙をながす本当の理由も…何もかも…


私は知ることが出来なかったんだ―――…。




わずかな"ひかり"さえも自力でつかもうとしない、私には――。