わたしが紗江に出会ったのは、ちょうど今日みたいな気分の日だった。

美咲がわたしをうらぎった日。

「紗江!久しぶり!」

「昨日会ったって」

「わかってるよ。なんとなく。紗江に会わないとわたしの今日は始まんないの」

 ぷぅ、とほうをふくらませてすねてみた。紗江は半分こまったような笑みを返す。半分は笑顔。

 紗江は笑う。

「あ、バス来るみたい」
 二人はバス停に走った。ほどなくして、緑の装飾が施されたバスが来た。

 二人を乗せてドアが閉まる。乗客はわたしたちを入れて6人。

 車内は静かで、わたしは話をしなかった。紗江も話しかけてこない。


 沈黙の空間を運ぶバスは、彼だけが大きな息を吐きながらガタガタ道をひた走る――そんなことを考えながら、わたしは目を閉じた。