「アレからあたし、ちゃんとしてたの!
いい子にしてた! だから大丈夫だよ!」
お兄ちゃんの足は、
止まるどころかどんどん早歩きになってる気がする。
「待って、お兄ちゃん!」
「いい加減分かれよ!!」
急に大声を出したお兄ちゃんに、
身体がビクッと強張った。
振り返ったお兄ちゃんの目は、
冷たく、どこか寂しさを訴えているような目だった。
「お前がどんなにいい子にしても、
あの人がお前を見たことはあったか?
話を聞いたことはあったか?
お前のは、綺麗ごとだよ。
ダメなんだよ。
お前の事も、母さんのことも、
俺の事も考えちゃいない。
あの人は一生懸命に
自分の事だけを考えるんだ。
なにをしても、言っても、
ダメなんだよ・・・・・・」
スッとあたしから顔をそらすと、
お兄ちゃんは人ごみの中へ消えてしまった。
もう、追いかけることも出来ない。
出来なかった。
“あの人がお前を見たことはあったか?”
お兄ちゃんの言葉が、
矢のように胸に刺さる。

