もしかしたら、俺が今しようとしていることは、結衣をひどく傷付けようとしているのかもしれない。

でも、このまま親父が好きに動くのを黙って見ていられなかった。



結衣の手を強く握ったまま家の中に入ると、使用人たちが皆驚きの表情で俺たち2人を見ていた。

その遠慮ない視線に、結衣の身体が緊張しているのが分かる。


「大丈夫」と耳元で声をかけると、結衣はもう今にも泣きそうな顔で俺を見上げた。


……なんつーか、そそられるな…。

そんなことを考えている場合じゃないのに、つい不埒なことを思ってしまう自分が情けない。




そして、視線を浴びながら長い廊下を進んでいると前から松井さんが来るのが見えた。

「あら、銀次坊ちゃん。お帰りなさい」

……結衣の前で坊ちゃんはやめてほしい。

「その呼び方やめてくれよ…。それより、親父はどこ?」

「書斎にいらっしゃいますよ。……あらあら、可愛らしいお嬢さんだこと」

穏やかに微笑む松井さんに、結衣がペコリとお辞儀した。


「可愛いだろ、俺の彼女」

恥ずかしげもなく紹介する俺に、結衣が顔を真っ赤にさせている。

そんな俺たちを見て松井さんは「あらまあ」とさらに笑みを深くした。