笑顔で隣にいろって……。

それだけでいいって言うが、あいつの隣にいるだけで自然と眉間にシワが寄ってしまう。あの女、無理難題言いやがって…。


トイレにある鏡の前で、引きつる頬をムリやり上げながら笑顔の練習をしていると、疲れた表情をした樋口さんが入ってきた。


「樋口さん!?何でここに!?」

「あ…銀次さん。私たちも招待されていまして…」

「…てことは、親父も今来てるのか!?」

「ええ」


どこにいる!?と詰め寄る俺に、樋口さんはためらいながらもロビーラウンジにいると教えてくれた。


「ありがと!…ところで、親父また何か仕掛けてるのか?」

樋口さんの目の下のクマが妙に気になる。きっと、本来の仕事とは別に、親父に振り回されているのだろう。もしかしたら、何らかの作戦を準備しているのかもしれない…。


「いえ…今のところは特に…」

もちろん俺に言うはずもなく、樋口さんは気まずそうに俯いた。

「そっか…ま、いいや。ありがと」

問い詰めたところで樋口さんが口を割るはずがない。仕方ない。直接親父に問い詰めてやる。